北の大地で、バルトロは門を潰して回っていた。  波打つ壁面に軽く触れれば、それは何事もなかったように凪を取り戻す。

(タマシュが作らされたんだろうけど、繋がってる覚醒世界の座標に規則性もないし、何だろうな)

カダスの宴会で何度か顔を合わせた若年の男神を頭に浮かべながらバルトロは首を傾げる。  頭の中のタマシュはヘコヘコと謝り倒していた。

(レンにも幾つも開いてたから、アイツが留守にした隙に何かされるかと思ったけど、そんな様子も無いなぁ)

腑に落ちないながらも、バルトロは次の座標に向けて自ら門を開いて転移していく。  放っておいても数日すれば閉じるのだが、門の監視者であるバルトロは、門の数だけ目が開いたような感覚になるので、こう多いと気持ちが悪いのだ。

しかし、ひとつ消す度に嫌な感覚は増していく。  何かを見落としている気がする。しかし、大量に開いた門から流れ込む映像が、思考を妨害してくる。

もう少し消してから考えよう、と次の場所へ赴けば、縞瑪瑙の宮殿が視界に広がる。  振り返れば庭園から放射状に伸びた道の先に歪な形の小屋がある。  それがインカァノクの神官たちが、地下を通りルズの一部にある神殿に降りるための建物であることは知っている。  その脇に門が開いていた。  同様に消そうとして、そこでバルトロは思い出したように足を止めた。

「そういえば、ここまで来たら門を出してあげるって言ったんだったなぁ」

しばし考えた後、バルトロは目を閉じ、一つの呪文を唱える。

「≪卜占≫」

あらゆる過去と未来を内包するヨグ=ソトースの化身であるバルトロには、当然の如く未来を視る能力と権利がある。  しかし、未来とは決して画一的なものではなく、幾つもの可能性で構成されている。  行き違った可能性は別の次元の中を進み、交差し、縺れ、分岐し、並走する。  そんな複雑に絡み合った糸を紐解くのは容易な作業ではなく、またバルトロ自身、さして興味が無いため普段はわざわざ見ていない。  彼はやがて、閉じていた目を開き、門に視線を戻す。

「これは、残した方がまだマシかな」

次に行こうと踵を返した、その瞬間のことだ。  開かれた数多の門の1つから、あってはならない音と映像が流れ込み、バルトロはその場で身を翻して遥か遠くの一点を見据えた。  その視線の先、険しい山脈の奥にそびえる一際高い山の頂上には、神々の住まうカダスがある。  距離にして数百キロはあるその山頂を見つめ、バルトロの表情が苦々しいものに変わっていく。

「あーあ、視るべきはそっちかぁ。アイツにまた文句言われそうだな」

面倒くさそうに呟きながら、バルトロはその場に門を作り、飛び込んだ。

***

神々の住まう土地カダスは、周囲の土地に生命の気配がなく、荒涼としていることを除けば、その名に相応しい壮麗な場所である。  城は神の尺度の中でも広大で、そこから溢れる光が絶えることは無い。それに根差す幾つもの丸屋根の塔が、神々の居室になっている。  しかし、それは今、侵入者によって蹂躙の限りを尽くされていた。  飾られていた彫刻や絵画は地に落ち、砕け、その身を散らしている。空間を彩るはずの神々の笑い声や輝かしい姿はなく、ひっそりしている。

その中をただ一人、青い複眼を持つ人型の異形が、我が物顔で闊歩していた。それは両腕に意識を手放した地球の神々を担ぎ、金色の鍵によって開かれた門へ無造作に放り込んでいく。  全員を在るべき場所から引き剥がし、最後に自身も門の先に立ち去ろうとする。その時だった。

「待て」

開いていた門が捻り上げられたように収縮する。  周囲の空気がぴんと張り詰め、今までとは異質なものへと変化した。  空間を従え、相手の退路を断ったバルトロは、吹き荒ぶ風の中で侵入者の前に進み出た。