<aside> 🐈⬛ 2023.8〜2024.2にかけて弊卓で開催した「野狗子と薬師」ED4補完SS。 シナリオに一切ない捏造&後付けなのでご了承ください。
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「……お姉ちゃん」
空間を軋ませる程の瘴気を纏い、この場を蹂躙した存在が次々に退散し、その中心にいた人物が崩折れる。
その様子を最後まで目に焼き付けて、魔女と呼ばれた少女は俯いた。
整然と並べられていた贄は黒山羊と野狗子に食い漁られ、もう水神を呼ぶことはおろか、原型を見出すことすら困難だ。
例えそうでなかったとしても、姉を手の届かない場所に奪われた今、少女にとってこの場はもう何の意味も持たないだろう。
「またダメだった。今回は、上手くいくと思ったのに」
まるで保護者に頑張りを褒めて貰えなかった少女のように、アンは寂しそうに、しかし二言目には「また次頑張ろう」とでも言い出しそうな軽さを持って呟く。
神格が降りた聖堂の中は、燭台やランタンがなぎ倒され、光源となるのはそこから立ち昇る火の粉だけ。
しかし、ステンドグラスを貫く月光は、神々の降臨と誕生を祝うように炯然とこの場を照らし出し、アンの白い肌に七色の影を落とす。
ただ、黒山羊の乳を被った手首や頬だけが、ぽっかりと闇黒のまま取り残されていた。
「魔女、アン・シャトレーヌ」
「……まだ居たの、ヤハウェの落とし子」
アンは初めてイブンを見た。ここまでずっと彼を素通りしていたサファイアブルーの瞳が、イブンの金の瞳とかち合う。
「居たら悪いのか?」
「別に。あなたは、ただの傍観者。運命の輪が廻るのを見届けるためだけに居るのよね。少なくともこの場では、そういう風に定義されているもの。だから、どうでも良いわ」
「……」
「知識はあっても、全てを知っていても、肝心なところで手を出せない。声が出ない。あなたがどれほど父親を求めたとしても、その役割の方が優先される」
アンの視線が、憐れみの色を帯びる。それが初めて、彼女が彼にくれてやるモノだった。